序
小路をふらついていた少年はまったくの拾い物だった。 男は長いこと人買いを生業としていたが、これほどの上物にぶつかったことはなかった。 半ば朽ちかけた廃屋に連込んだのは二刻も前のことである。破れた戸板から零れ入る蒼ざめた月光を纏い、艶かしくうごめく少年の肢体は妖美だった。 もう幾度交わったか覚えてもいない。色事に慣れたはずの男の理性は根こそぎ奪われている。 少年の虚ろな目を見たときは物狂いかと思われたが、どうやら頭の方ははっきりしているらしい。要求する淫らな体位を躊躇うこともなくこなし、男を享楽の極みに誘う。 あどけなさの残る顔に似合わない、赤く濡れた唇をかすめる凄絶な笑みが、たとえようもなく淫靡だった。 「ガキのくせに、大した色狂いだぜ」 細い腰を執拗に突き上げながら、男はぬめりとした笑みを浮かべる。 「どこぞの若君のような顔をしているくせに……なかなかどうして……慣れたものだな」 少年は唇の端をわずかに持ち上げてかすかに微笑み、快楽を貪るようにしなやかに背中をしならせる。 「おめえ、名前は?」 「……樹音(むらね)」 男は荒い息を吐きながら、かすむ頭を必至に巡らせた。 「おめえならすぐ売れっ子になるぜ。京師一の妓楼だって大枚を積むだろうさ」 今にも弾けそうな衝動をこらえるために男は口を動かす。 男はもぐりの人買いだった。もっぱら拐かした子供を淫売宿に売るのが男の方法だった。 未成熟な身体に恐怖と淫楽を植え付け、魂を堕とし、泣きわめくことすら忘れた子供を売り飛ばす。男にとって元手要らずの趣味と実益を兼ねた生業だった。 そんな男に高級遊廓のつてがあろうはずもなかったが、馴染みの淫売宿に売り飛ばすにはもったいない上玉だ。 男は血走った目で、自分の身体の上で悶える芳醇な肉を凝視する。 情欲に浸りながらも崩れない典雅な美貌。 絹糸のようなしっとりしたぬばたまの髪。 抜けるような白い肌。感情をほとんど映さない瞳は、苛虐趣味の客を奮え立たせだろう。 すばらしい金づるだった。 男は拾った幸運に有頂天になっていた。 底なしに溢れてくる己れの異常な情欲にも身体の変調にも、男が気づくことはなかった。
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