「世界のすべての男は美人である。女に美人は稀である」と、安倍晴明が言ったとか…ホンマかいな。ようするに女は化粧や衣装で人の目を欺くと言いたいらしい。
理由(わけ)あって、大隈(鹿児島県姶良郡)の片田舎に隠れ住む浪人の家に、美しい男の子が生まれた。 その理由とか両親のなれそめは、直接内容に関係ないからバッサリはしょる。 子供の名は玉之助。15歳になるころには「こんな田舎に置くのはもったいない」と、近隣の噂になるほど。 この頃から、玉之助には男色嗜好があったらしく、母の心配をよそに、 「せっかく美少年に生まれたんだから、そういう恋を知らないなんてもったいないじゃないかー」 と、こそっと呟いたりしているが、もちろん、まだ恋に恋するお年頃。 ともあれ、鄙には稀な美少年に成長した彼は、奉公先を求めて江戸に出てくる。 ちょうど口をきいてくれる人がいて、殿様の小姓採用試験に無事合格、殿のお供をして会津に下った。
この玉之助くん、美人さんのうえに心根もよいので、殿様にも目をかけられ、可愛がられたようだ。でも殿のお情けを頂いたのかは、灰色といったところだが、怪しむにたる理由は、あ・と・で。 さて、風もなく穏やかなある夕方、殿様のお声がかりで小姓たちは蹴鞠をしていた。 いずれ菖蒲かカキツバタという美しい小姓たちである。殿様の関心を向けるべく、顔で笑って心はマジっ、だったに違いない。 ところが、いつもは見事な蹴りを見せる玉之助の様子がおかしい。と、突然ぶっ倒れてしまう。医術を尽くしたものの、玉之助は次第に絶望状態に陥る。 世間の人が玉之助の平癒を願って、見舞いの記帳に押しかけたっていうんだから、彼は本当にいい子だったんだねー。それとも、美人の役得ってヤツかしらん。 それから半年あまりもかかったが、玉之助は一命を取りとめた。 ようやく床払いができた頃、見舞い帳を一見すると、病に倒れた時から毎日3度ずつ、見舞いに来ている見知らぬ男の名がある。 この男・笹村千左衛門いう下級役人で、実は、玉之助に恋焦がれていたのだが、高嶺の花と思い込み、恋文ひとつ届けたこともない。 当然、玉之助が知るはずもないわけで。
そのあたりは、お年頃の玉之助くん。ピーンと来るんですな。 見舞いのお礼を口実に、千左衛門の屋敷を訪ねてみるも、相手はなんとも煮えきらない。 ついに玉之助くんてば、情熱的というか怖いもの知らずというか、 「あんなに何度も見舞ってくれたのは、ぼくに惚れているからでしょ。ぼくも嬉しかったし、その気があるなら身を任せてもいいよ」 なーんて迫っちゃうのだ。 言われた千左衛門のほうが真っ赤になって、感動のあまり目がうるうる。「紅葉に時雨が降りかかるような風情」と、ウブいところを暴露する。 それでもモゴモゴする千左衛門にのしかかっちゃった…かどうかは定かではないが、ついに、衆道の契りを結んだそうな。ひゃ〜。 心ゆくまでイチャついて、気持ちを深める2人が目に浮かびますな。
しかーし! そんなラブラブモードも長くは続かなかった!! 物語はもう一波乱。2人の関係は早々にバレて、両人閉門とあいなった。 死を覚悟でこーゆー関係になったのだから、二人は少しも嘆かなかった――で、先の殿様と玉之助の疑惑の関係に戻る。
小姓とは殿様の雑用係りで、すべての殿様が小姓に性的興味を持つわけじゃないし、当然、女道一筋の殿もいる。また、念者を持っている小姓もあったというし、武士の間では衆道は精神の強い結びつきとして女狂いよりもよほど尊ばれた。 すると、千左衛門と玉之助が死をも覚悟して関係したということは、玉之助はすでに御手付き小姓だったのではないかと想像できたりする……。
それはさておき、この二人、死を覚悟してーなんて言いながら、閉門=会えなくなる時を想定して、こっそり文通なんかしている。 それでもやがて、この世で会えないなら死んだ方がマシっとばかり、「切腹を仰せくだされば、ありがたき幸せ」と訴状する。恋愛中の二人にはヘビの生殺し状態だもんね…。 これを読んだ殿様も悩んだことだろう。それでも、やっぱり玉之助を憎からず思っていたのか、未練があったのか、玉之助は何事もなく元服を許され、千左衛門もなんの咎めもなく閉門を解かれる。 二人は、殿様の温情に感激。 「25歳までは手紙もデートも慎もうね」と誓い合って、ご奉公に勤めたのだった。
うーむ……、なぜ、25? 25歳小姓定年制度でもあるんだろうか。25歳になったら恋愛解禁なのか?? 謎を残しつつもハッピーエンドだ。めでたし、めでたし。(巻1-3) |