本館迷夢的西鶴男色大鑑 目次衆道辞典

男色大鑑 第三巻
・1、編笠は重ての恨み
<あみがさはかさねてのうらみ>

叡山の稚児若衆に、阿闍利(あじゃり)の夜の御伽をしている蘭丸という少年がいる。年は14の別嬪さん。当然、目をつける輩ややっかむ連中もいるわけで。

阿闍利=叡山の高徳の僧

「いったい、どれだけ衆道相手がいることやら」
当てこする嫌味な貞助なんてヤツもいるが、蘭丸くん、少しも慌てず。コイツがネチネチ絡んでくるのはいつものことで。
「ふーん。そーゆーことを言うような証拠はあるの?」
「自分の胸にきいてみろよ」
「僕が師の坊の慰みになっているのは、本当の情愛からじゃないよ。心にかけた兄分は一人だけだし、今でもその人のことは忘れられないんだ」
ちょっと涙ぐんだりしてみせると、みんなバツが悪い思いをして話をそらし、うやむやになってしまう。少々気が弱そうだけど、まあ、憎めない子なんですな。

蘭丸は裕福な侍の子として12人兄弟の末子に生まれたのだが、ある年に一家は立て続けの不幸に見舞われ、10人の兄弟が死んでしまい悲しみのあまり母も他界。
一人出家すれば九族愛欲の罪から免れるというわけで、蘭丸は12歳の秋に叡山に上ったのだ。

九族=高祖父・曽祖父・祖父・父・自分・子・孫・曾孫・玄孫にわたる九代の親族。

一人残った息子に家督を譲り、「いつか墨染めの衣を着た姿を一目見せてくれ」の言葉を残し、父は隠居。
その父の思いに応えたいと、蘭丸は幾度となく出家を申し出ているのだけど、なにせ阿闍利のお気に入り。不本意ながらも未だ叶わないでいる。
それでも嫌味を言われれば、内心傷つく。かといって果し合いなどしたら、父の思いを無にすることにもなる。板ばさみの蘭丸の心情を慰めるのは、今は京にいる兄分から送られてくるラブレターだった。

ところで叡山の稚児若衆たちは髪を結う床屋まで4里の山道を出かけるのだが、その職人の中でも特に手際の良い男がいた。
白鷺の清八といい、髪結いの技にすぐれているので客の指名も多い若者である。
どうやら蘭丸に惚れているらしく、彼が来ると特に念入りに結い上げたり、何かと気遣うので、周囲にもバレバレ。
やがて蘭丸も情にほだされ、清八に身をまかせるように。

貞助の当てこすりはあいかわらずで、じーっと我慢の日々は続いていた。
だがある日、さすがの蘭丸もついにブチ切れてしまい、相手を討って自分も死のうと、うっそりと決意する。
死ぬからには、せめて愛しい兄分に一目姿を見せ、添い寝もしたい。
覚悟を決めた蘭丸は、情を交わしていた清八に心の内だけで別れを告げる。
うーん、切ない。
その様子に不審を感じた清八がこっそりと後をつけると、蘭丸が刃物研ぎ屋に立ち寄った。研ぎ師に尋ねたところ、切刃をつけたという。
なになになに〜?! 蘭丸に何があったんだ?
慌てて追いかける清八だが、近道をしようとして足を痛めてしまう。もたついているうちに日が暮れて、あたりは真っ暗に。それでも何とか山門の灯火のもとまでたどり着いたものの、蘭丸の心が分からない。
あれほどの美少年だから、もしかしたら他にも惚れたヤツがいるのかも…。
悶々としているところに、なんと、「蘭丸が貞助を討って逃げた!」
寺中が松明(たいまつ)を輝かせ、早鐘をつき法螺貝を吹き立て、日頃から蘭丸に袖にされた恨みを持った悪僧どもが、手分けをして探している。
清八もその跡を追いかけると、荒法師どもが6、7人で蘭丸を捕らえ、自害もさせずに取り巻いていた。
「どうせこいつは打ち首になるんだから、いいよーにしちゃおーぜ」
「――ッ」
荒法師どもの醜く歪んだ笑いに、声にならない悲鳴を蘭丸が発し、よろめいて草地に頽れる。
前に立ちはだかった男の腕が伸び、きっちりと合わせた衿元に手をかけ、凄まじい力で開いた。
夜目にもしなやかな白い肌が浮かび上がる。
身を返して逃れようとする蘭丸の足首を掴んで、男が引き摺りよせた。さらに起き上がろうとしたところを、すぐさま押さえつけ、地面に縫いとめる。
「く……」
蘭丸は呻いて、体を引こうとした。
力を込めたが、押さえつけられた体は、びくともしない。
髪をつかまれて白い喉をのけぞらせる蘭丸。おおおっ! 色っぽい!!
…なんちゃって、ごめん。つい興が乗っちゃって、ちょい脚色。えー、気を引き締めて…。(^.^;
両腕を押さえつけた蘭丸に口移しに酒を飲ませる者あり、袖下から手を差し入れる者あり、ついには帯をほどき、ディープキスを強要する物ありと、散々に嬲っている。
多勢に無勢。蘭丸は泣きながら歯を食いしばるしかない。
そこへ駆けつけた清八は悪僧どもを斬り散らし、蘭丸共々行方知れずに。

それから3年ほどたって、虚無僧姿の蘭丸を鎌倉の鶴岡八幡宮の辺りで見かけたという噂されるが、真相は定かではない。


タイトルの「編笠重て」は、滋賀県坂田郡の筑摩神社の祭礼に掛けている。
    当時は4月初午の日に行った。氏子の女子は、それまでに許した男の数だけ土鍋を作り、
    頭にいただいて神輿(みこし)に従う。その数を偽ると神罰を受けるといわれ、鍋祭ともいう。
    この物語の導入部にその情景が描かれているのだけど、紙面の都合ではしょった。
    なんだかスゴイお祭りだけど、現在はどうなっているのかは不明。情報求む(笑)。


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