今も昔も親は子供のあばた面を嘆くもの。女の子なら持参金をつければなんとかなるが、男の子は悲惨なのだそうだ。若様であってもそれは同じで…。 桜田あたりのある大名の若殿が6歳のとき疱瘡(ほうそう)にかかり、痘痕(あばた)になってしまった。
| 桜田=桜田御門の外。現在の日比谷公園から霞ヶ関のあたり。
| 嘆き悲しむ一家に、ホトトギスの羽で撫でると疱瘡の跡がきれいになると告げる者があり、さっそく「その鳥を捕らえよ」ということになったものの、すっかり晩秋の頃で時期が悪い。 探しあぐねているところ、ある小鳥好きの嶋村藤内という浪人が飼っているという。 浪人に話すと、一度は快く譲ってくれようとしたが、お礼金の話がでるとヘソをまげてしまう。 一計を案じたお局が京育ちの美人女中を4、5人飾り立てて、訪ねて行ったところは人里離れた草葺きの庵。 心も澄み通るような風情の中から、鬢付け油売りらしい前髪の少年が上気した顔で帯を結びながら、すっかり閉口した様子で出てくるが…何をしていたんだ?!(^。^;) お局が声をかけても少年は返事もしないで逃げてしまう。そこで門番を呼んで案内を頼んだところ、「ここの旦那は女と名のつくものは大嫌いだから、女の取次ぎなどとんでもない」 浪人にさえ会えればうまくたらしこんで…と思っていたお局の目論みは呆気なくついえてしまう。 キーーーッ、貧乏浪人がなにさっ。
その女たちと別働隊で動いていたのは、お小姓組の金沢内記と下川団介という16、7の美少年ふたり。 いきなり中門(枝折門)に走りこむや、お命頂戴!(ええっ?) あまりの唐突さに藤内だって面食らう。 「そりゃ人間一度は死ぬものだから考えてもいーけど、どーいう子細(わけ)?」 「貴殿が死ねばこの家のものは自由になるから」って…あんたたち……。 「分かった分かった、この鳥はあげるから」 ということで、ふたりは無事、ホトトギスを手に入れたのだった。
その夜、浪人の家に忍んでやってきた内記と団介。丁寧に昼間の礼を述べ、 「これもご縁だから、ふたりと衆道の契りをしてちょーだい」…って、どーいう展開なんじゃー? 衆道好きらしい藤内も、「ふたりのうち一人を選ぶなんてできないし、キミ達の腹積もりも分からないからねー」 するとふたりは顔を赤らめて、深くお慕いしている証拠にと、やおら肩を脱いだ。 ふたりの左の腕には、それぞれ「嶋村」「藤内」と入黒子(いれぼくろ)が…。 ところが「そんなことは女がすることだ」と、藤内はにべもない。 「恋のためには命も惜しまぬような相手じゃないとねー」 そこでふたりはそれぞれ用意してきた切腹グッズ(三方と紙巻の小脇差)をさらけ出す。 「ホトトギスが貰えなかったら切腹する覚悟だったんだんだから、衆道のことで命なんか惜しくないやいっ」 のらりくらりと態度を濁していた藤内も、これにはさすがに「疑ってゴメンねー」 左右の小指を喰いちぎってふたりに渡す。 情けと情けを一つに合わせた、世にも珍しい衆道契約だそうな……珍しすぎてわからないや。(@_@)'''?
タイトル「雪中の郭公」とは珍しいことのたとえ。また、ホトトギス(時鳥)は 死出の山から出てきて農作を勧めるなどの諸説あり。冥途の鳥、無常鳥とも。 |