本館迷夢的西鶴男色大鑑 目次衆道辞典

男色大鑑 第三巻
・2、嬲ころする袖の雪
<なぶりころする そでのゆき>

伊賀の国(三重県津市)の国守に仕える児小姓組のひとり山脇笹之介は気配りの行き届いた少年で、殿の覚えもよい。お側近くに召し使われていたが、江戸詰めは免除されたので、殿の御参勤のあとは気ままに暮らしていた。
山がすっかり雪景色となったある日、前髪仲間四人で追鳥狩りに行ったものの、雀すら見かけぬ始末。がっかりして帰ろうとしたとき、笹薮の繁みの番小屋あたりから雉(きじ)が飛び出してきた。
それを捕えて喜んでいると、さらに何羽も出てくる。嬉しいけど、ちょっとヘンじゃないか?
はたして、無人のはずの小屋には籠に入った雉と、男二人が身を隠していた。
御領内で鳥を捕ることはお手討ちものの禁止事項。
だが、取り調べようとしたところ、ひとりは顔を隠して逃げてしまう。
捕らえられたひとりが、あわやお手討ちとなるところ、笹之介のとりなしで事無きを得る。
皆を先に帰してからその男に訳を訊くと、自分は伴葉右衛門(ばんのはえもん)の下男だという。
しかし、葉右衛門ならば逃げ隠れする必要がない身分のはず…。
さらに問い質すと、
「山脇笹之介という方が鳥狩りに出かけたが、今日は鳥のいないことをご存知ない。でもせっかくの遊山だから気持ちよく遊べるようにと、庭の鳥籠の鳥を皆さんの目の前で放してやったのです」とのこと。
それが縁で、笹之介と葉右衛門は深く衆道の契りを交わすようになる。

ある時、少年同席のある酒宴にたまたま行き合わせた葉右衛門は、何気なく盃(さかずき)を受けた。葉右衛門は気がつかなかったようだが、どうやらこの酒宴、若衆との合コンだったらしい。
それを笹之介に言いつけるヤツがいたから、さあ大変!
笹之介の胸には嫉妬の炎がメラメラ〜。
ここは一発、ガツンとお灸をすえにゃいかんっと、激しい風にもめげず門外に立って情人を待ち構えた。
葉右衛門が訪れるや直ぐに手を取って屋敷内に入れ、すべての錠をおろし、庭に葉右衛門を残したまま、内からも雨戸を締めきってしまう。
のほほんな葉右衛門は、しばし茫然。
だって彼は合コンだって知らなかったんだもん。笹之介くんが怒っている理由も分からないんだもん。
その内降り出した雪は激しくなり、葉右衛門も次第に我慢もできなくなり、「おい、死んでしまう」と精一杯わめいた。
「誰かさんと交わした盃の酔いがまだ醒めないでしょ」
二階座敷から投げられた笹之介の言葉で、ようやく彼の怒りの原因を知る葉右衛門だった。
「あれは何の気なしにしただけだし、もう懲りたよ。これからは若衆の通った後も通らないようにするから」
下手に出て詫びたが、笹之介は承知しない。それどころかさらに着物を脱げだの、髷をほどいてざんばら髪にしろと追い討ちをかける。
惚れた弱味か、言われたままになる葉右衛門。
やがて寒さと悲しさで息も絶え絶え、体も震えだし、Oh my God! 幽霊のような声で手を合わせて拝むしかなかった。
それでも笹之介は素知らぬ顔で、小鼓を打って謡いだす。
しばらくして下を覗いて見ると、葉右衛門は瀕死の様相。慌てて手当てをするが、その間にもはや脈も絶えてしまい、笹之介はその枕元で自害してしまう。

家人がいつもの寝間を見ると、布団には枕が二つ並び、夜着には香を焚き染めてあり、酒盛りの用意もできていたという。
度が過ぎる嫉妬はなんだけど、その心根が切ないね。


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